レンアイゴッコ(仮)
疑問が浮ぶ。けれど、熱で浮かされた脳内で疑問を解くことは難しく、とろんと目を落として首を傾げていると、頬をむにむにと抓られた。

「顔、もう溶けてる」

「ふ、あ……?」

「本当に隙だらけ」

東雲が言っている意味がわからない。けれども、この上なく嬉しそうに目尻を下げた彼は、なにもかもを飲み込むように唇を塞いだ。

ずるいと思う。

こんな風に抱きしめられてキスされてしまうと、誰だって、好きになってしまう。

「柑花」

罪な男だと思う。

こんな時ばかり声色が丸い。普段無表情なくせに瞳が優しい。たまごたっぷりに仕上げたとろとろのオムライスよりも柔らかで、ふんわりと甘く笑った東雲がもう一度私の名前を呼ぶ。

「柑花」

東雲に名前を呼ばれる度に、静かで、心地よい音が私の中心で鳴る。

「(ああ、もう……)」

首に腕を回して東雲を受け入れた。

好きだ。

私は、好きな人がいるこのひとのことが好きだ。

これは私が望んだこと。

真っ赤に熟れたこの恋心は、私の心の中で一人で温めるのだと。
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