レンアイゴッコ(仮)
あの日、唇の感覚が無くなるまでキスをした。

一日にあんなにキスをしたのも初めてだし……それに、

「(気持ちよかった……)」

東雲のキスは心地よくて、止めるどころかもっととせがんで、いつの間にか背中に手を回して抱きしめていた。

アルコールのせいになるほど私は飲んでいない。つまり、東雲を求めたのは私の本心。

酔いしれるようにキスを繰り返していると、東雲の長い指が私のお腹に触れた。


「ま……って」


肌に触れた感覚に驚いて、掛けたストップが、私たちを現実に戻した。

「ああ、わるい」

「……や、だいじょう……ぶ」

「続けてもいいの」

「……えっ」

社交辞令を本気の熱量で渡され、思考がフリーズしてしまう。

『柑花のこと、もう、女として見れない』

なのに、過去の言葉は鮮明に思い出されるのでやるせない。そしてそれが私の顔に出てしまったのだろう。東雲は軽く私の頭を撫でると、私の腕を取って引き上げた。

「冗談だよ」

東雲琥珀は、私の不安を冗談に変えてくれるひとだ。細かな配慮を、私に傾けてくれる人だ。

「(ううう……好きなんだけど……)」

「すぐに帰るから安心しなよ」

けれど、東雲は安心とはほんの少しかけ離れた言葉を落とす。

「え……直ぐに帰るの?」

「は?」

「……せっかくだから、ちょっとゆっくりすればいいでしょ……?」

「お前な、無自覚にも程があるよ」

……無自覚とは、心外である。

東雲は本当にしばらくすると本当に帰ってしまった。

泊まってくれても良かったのに、仕事が残っていたらしい。
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