レンアイゴッコ(仮)
「なあ、柑花」

突然、東雲の声がまあるくなった。

「……なに」

いつものように見上げた。いくら気分が優れなくても、東雲の声には反応するものだ。

「彼氏として二つお願いがある」

「二つ?」

ピースサインを作ると、東雲は人差し指を立てた。

「一つ目。絃葉は家に上げないこと」

「(絃葉?)」

なんで、絃葉?そもそも、なんで東雲が絃葉の名前を知ってるんだろう。

東雲の口から出る単語としては掛け離れている。

「(説明したことあったかな……?)」

「……聞いてる?」

悩んでいると東雲の声が私を急かし、現実に引き戻す。

「聞いてるよ。絃葉には言ってみるね」

「二つ目」

納得してくれたらしい東雲は、突然私の身体を持ち上げ、俗に言うお姫様抱っこをする。ふわっとした浮遊感が腰のあたりにただよう。

「……っ!?」

「体調が悪い時はすぐに言うこと」

「た……体調?」

「昼は赤いと思えば、今は顔、真っ青」

「や、えっ……と……」

「俺の前では強がらないで」

殊更優しい声と共にベッドに下ろされた。私を撫でる手のひらは相変わらず冷たくて心地よい。
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