レンアイゴッコ(仮)
コーヒーを飲み終えて、軽く化粧を済ませ、昨日と同じ服に袖を通す。

東雲は普通だ。普通すぎて欠伸をしている。

「(付き合った……んだよね?)」

袖口のボタンを留めながら、東雲の無駄にいい横顔を眺める。目尻に涙が浮かんでいる。普通だ。

「ねえ、昨日の話って本気?」

「昨日?」

「ほら、付き合うとか?」

「ああ、本気」

「(本気だったんだ)」

いつも通りの熱量で返された。東雲の本気は分かりにくい。

「んじゃあ、どうしよっか。下の名前で呼びあったりする?」

「……呼べんの?」

質問を質問で返され、脳内でシュミレーションし、愕然として頭を抱えた。

「…………無理だ」

「だよな」

「東雲、1回私の事呼んでみてよ」

「いや、無理」

東雲の顔が逸れる。どうやら同じことに躓いたらしい。

「ていうかどうする、みんなに言う?」

「秒でネタにされるでしょ」

「だよね、内緒にしよっか。じゃあ、会社では今まで通り」

「了」

「それじゃあ、またあとでね〜」

いつものような挨拶で、東雲の家を出た。25歳、二日目。空は清々しいほど晴れ渡っている。
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