レンアイゴッコ(仮)
そもそも東雲が本当に無関心であれば、律儀に応じてくれるだろうか。ぬいぐるみ一つ、大事にするだろうか。

そもそも東雲が本当に無欲な男であれば、止まないほどのキスを落とすだろうか。濡れた瞳を寄越すだろうか。

「(駄目だ、考えまとまらない)」

こういう時は飲むに限る。飲んで頭をスッキリさせる方が絶対にいい。




𓂃𓈒 ❅ *


「……何してんの?」

なんて、そう思ったのに、私の意思とは反対に空腹は遠のいて、こんな状態で飲みにいくなんてとても無謀。

「東雲を待ってたの」

だから、弊社の入るオフィスビルの1階エントランスで東雲を待つことにした。私の選択肢は飲みに行くことじゃなくて、東雲と一度向き合うことだ。

現れた東雲は、腕時計を確認しこちらへ視線をスライドさせる。

「連絡入れろよ」

「連絡入れたら仕事切り上げるでしょ」

「切り上げるというか、優先順位を遵守するだけ」

「優先順位?」

「残業中は仕事より妃立の方優先するよ」

心臓に悪い。東雲の言葉には1ミリも淀みはなく、思わず手で顔を覆った。

「……どうした」

暗闇の中、東雲の声が聞こえる。

「ちょっと心を落ち着かせてるの」

「ああ……また、俺のせい?」

「そう。東雲琥珀のせい」
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