レンアイゴッコ(仮)
東雲琥珀という男の人が、私の一挙手一投足で感情を左右させている。今もまた、自由な手で頬を隠し照れを隠そうとする姿が、私の心に矢をブスブスと刺していく。

心臓をギュッと掴まれているような感覚は今はもう雑巾を絞られているぐらい捻れて痛い。
 

「……そういえば、言うの、忘れてた」

「なにを?」

返事をすると、突然、東雲は何故かベッドの上に正座した。不思議に思い、重たい身体を持ち上げ上体を起こした。

先程とはちがい、東雲はまっすぐと、射抜くような目を向ける。


「妃立柑花」

「うん?」

「ずっと大事にするから、寂しくさせないから。……俺と付き合って下さい」


愛に満ちた声に、私はもう無理だった。じわりと涙腺が緩み、東雲の輪郭が涙の膜で揺れる。


「……よろしくお願いします」


その人に向かって微笑むと、東雲は綺麗な顔をゆるゆると緩め、お砂糖をまぶしたような甘い笑顔を浮かべた。
返事がなくとも、その笑顔が答えのようだった。

考えは人それぞれで、いま、ぴたりと隣合う私たちにも差異はあるかもしれない。けれど、嬉しい。東雲が喜ぶと私も嬉しい。この人の笑顔を見ていたい。ずっと隣で、出来れば私だけに見せて欲しい。

欲張りな私を認めて、飽きるまで大事にしてほしい。

明日はきっと晴れるから。
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