レンアイゴッコ(仮)
背中を背もたれにくっつけたまま、おしりだけで移動する。そんな私を見逃さないと言ったように東雲が距離を詰める。なんて意味の無い鬼ごっこ。

「昼間に、一瞬だけね。人手が足りないから、私の事引き抜くつもりだったのよ」

事実だけ淡々と告げると「……引き抜く?」と、東雲は目を細めた。ぎらり、その瞳に力が込められた。

「私、優秀だから」

「見境ねえな」

──……見境?

聞き返そうとしたその時、足の横に置いていた手が大きな手に包み込まれた。そのままするりと指が絡まり、つなぎ止められる。

「……行くなよ?」

さっきまで強かったまなざしは、甘えたように上目で見上げてくる。

……ずるい。

母性本能がくすぐられるって、きっとこういうことだ。

「行かないよ。私がいなかったら東雲が無理した時誰が東雲のこと止めるのよ」

「大丈夫だろ。俺が離さないから」

「東雲が言うとなぜか説得力があるね」

「……どうも」

言いながら東雲の膝の上に身を乗り上げた。目線が同じ位置に来る。身長差がある恋人と好きな時に同じ目線になれるのは、彼女の特権だと思う。
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