レンアイゴッコ(仮)

恋愛ごっこ

𓂃𓈒 ❅ *

ある噂がまことしやかに囁かれていた。
その噂を私に届けたのは宮尾ちゃんだった。

「ねえ妃立さん。あの噂聞きました?」

突然コピー中の私の元へやって来て、意味深な言葉を放つ宮尾ちゃんに「なにを?」と聞く。宮尾ちゃんのことだ。芸能人のゴシップでも教えてくれるのだろうと思った。そこに警戒心などあるはずがない。



「東雲さん、異動するらしいですよ?」



無警戒の鼓膜は、上手に受け入れることが出来なかった。

「…………は?異動?」

「しかも東北の支社にですよー!」

いつものように、隅のデスクに座る東雲を見遣る。いつも通り無表情で、淡々とした様子だ。

「(……まさか……)」

コピー機を作動させながら、いやいやいや、と自分の中で否定する。

「どうせ噂でしょ?」

「噂ですけど、最近人事部が慌ただしいみたいじゃないですか!やだなあ〜……東雲さんが抜けたら超痛いですよね、妃立さんに全部回って来るんじゃないですか?」

「やだ、是非とも避けてもらいたいよね」

「……妃立さん、何枚コピーしてるんですか?」

「……え?」

気付けば、コピー機からは大量の印刷物が吐き出されており、頭を抱えた。

──「(ないない、異動なんてないよ)」

「Qbitも支店の方は全く人足りてないって聞くもんな〜」

いつかの元彼の言葉が脳裏にこびりついた。
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