レンアイゴッコ(仮)
大量のコピーをメモ用紙にリサイクルした。私の不手際だ。坂下先輩には「え、何この量、どしたの」と驚かれてしまったので「いつでも使ってください」と、メモを進めた。

それからミーティングルームへ向かい、ブラインドを降ろすとドアからひょこっと顔を出した。

「東雲くーん。ちょっと良いかな?」

ちょいちょいと手招きすると「……は?」と、遠くにいる東雲は眉根を寄せるから「ちょっと打ち合わせお願いします」と当たり障りのない説明をプラスさせた。

なんの疑いもなく東雲はこちらをやってくる。
ミーティングルームに東雲を招くとドアを閉めた。簡易的な閉鎖空間が完成される。

「打ち合わせって、なんの?」

東雲は細長いデスクに自分のノートパソコンを置く。無警戒の東雲が逃げられないように机に手を置き、東雲を囲む。


「ねえ、異動するって嘘だよね?」


見上げる。私の腕に囲まれた東雲の目が見開かれ、みるみるうちに表情が険しくなった。その様が肯定と捉えてしまった。

「…………誰から聞いたの」

第一声も否定じゃあなかった。

「私は、異動するのかって話してるの!」

つい、感情的になった。泣きそうな気持ちを堪えた。悲しさじゃない。悔しい気持ちが大きい。くちびるをぎゅっと結んで東雲の回答を待つと、静かにそのくちびるが動いた。

「異動はしない」

「……本当に?」

「本当」

「でも、火のないところに煙は立たないって言うじゃん。なんでそんな噂が回ってるの?」

「さあ。最近ちょいちょい部長と打ち合わせしてるし、それ見た鈴木が勘違いしたんじゃないの」

「……」

でも、それだけで噂になる……?
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