レンアイゴッコ(仮)
部長と話しただけで異動だと言われるのなら、私は今まで一体何度異動の話が出たんだ。出ていないでしょう?それとも、私が知らないだけで、裏では言われてるの?

「よく考えてみろよ。俺今、一ヶ月後、三ヶ月後、半年後の納期抱えるんだよ?それ放り出して異動するわけないじゃん。新年度ならまだしも、こんな中途半端な時期に異動はないだろ」

「そう……だけど」

疑問は多少なりともあるのに、東雲の説明にも納得してしまう。

そんな私の不安が伝わったのか、東雲は突然、私の頭をよしよしと撫でた。

「打診されたのは本当。俺が異動しないなら妃立を異動させるっていうから、そんな卑怯な手を使うんですかって言い返したら、冗談で済まされたよ」

私が引き合いに出されたの……?

心臓が嫌な音を鳴らした。一瞬でも東雲の気を揉ませた原因になったという事実が申し訳ない。顔を両手で覆った。

「ごめんー……」

謝罪の言葉が指の間からすっと通り抜けた。

「妃立が気にすることじゃないよ」

東雲はそれをすぐに受け取る。

「……いつ言われたの?」

「いつだったかな。……先週か、先々週か」

どうやら昨日や一昨日の話じゃないらしい。
それに、やっぱり火のないところに噂は立たないじゃん。
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