レンアイゴッコ(仮)
「どうしたのよ。率先して2人になるなんて、珍しいじゃない」

オフィスに戻ると、すぐさま声をかけて来たのは坂下先輩だった。

「……なんでもないです」

スッキリしない回答に肩を落とす私に、対岸の火事に興味を示す野次馬みたいに坂下先輩は椅子を寄せてきた。

「まさかあの異動の噂、鵜呑みにしたんじゃないでしょうね」

こっそりと耳打ちされ、言葉なく頷く。

「……そのまさかです」

すると、坂下先輩は眉を八の字にさせて笑った。

「噂よ噂。あんなの本気にしちゃだめよ」

私の不安をあっさりと嗤う。知らなかったのは私だけで、坂下先輩にもその噂は届いていたらしい。

「なあに?彼女が信じてあげなくてどうすんのよ〜」

「違うんです。……違うんですよ」

「なにがどう違うの?」

私は思い出していた。近頃、東雲の様子がおかしかったことを。

「こないだ東雲のスマホがちらっと見えたんですけど、インテリアのサイトだったんですよ」

「それで?」

「一回じゃなくて、何度もなんです。おかしくないですか?時期的にも、怪しいですよ」

「え〜……?模様替えしたいだけじゃない?」

「テーブルとかカーテンとか、東雲の部屋にあるもので十分なのに?」

「そんな気分なのよ」

「そんな気分で冷蔵庫や掃除機のスペックを比較します?一気に?」

畳み掛けるように続けると、段々と坂下先輩の覇気がなくなり「………………ダウト」と、降参してしまった。
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