レンアイゴッコ(仮)
こういう時はきもちよく酔って、ほろ酔い気分に浸かりたい。

ただ、いままで恋愛の愚痴は東雲に聞いてもらっていた。この靄は誰にぶつけたらいいのだろう。桜和?それとも絃葉?……坂下先輩?

あれこれ迷ってスマホを置いて、代わりに付箋を取った。ボールペンで言葉を綴り、書類の入ったファイルにぺたっと挟んで立ち上がる。

「東雲さん、確認したら返事お願いします」

「了」

素知らぬ顔で東雲に渡してデスクに戻った。付箋には《飲み行こう》とだけ書いた。

仕事に没頭していたころ「これお願いします」と、東雲から書類を受け取った。

《定時で上がる》

OKを貰い、ホッと胸をなで下ろした。


その場しのぎのはずだった、私たちの恋愛ごっこ。

美味しいものを一緒に食べたいのも、仕事帰りに会いたいのも、何かを話したいのも東雲で。

どうして私は、ただ頑張りたいだけなのに。欲深くなるのと反して信じられなくなって。私の気持ちは、なりたい私とどんどんかけ離れている。

『妃立が信用しないでどうするのよ』

痛いところを突かれた自覚がある。

「(……だめだなあ……)」

東雲はずっと前から最上位の“彼氏”なのに、私はいつまでも、“良い彼女”になれそうにない。
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