レンアイゴッコ(仮)
「それが付き合うってことだろ?」
東雲という男は感情の機微も見せず、さも当たり前に、心臓に悪い言葉を起伏のない声で聞かせる。
東雲がいう' ちゃんと 'が出来ない男が多くて妥協していたのに、出来すぎる男はもっと困る。
自分の中心から鼓動が聞こえた。これは致し方ない動悸。けれども、人が一生分に動かせる拍動の回数は決まっているらしい。であるならば、こんな時に、東雲に使うのはもったいない気がする。
「……東雲がモテる理由が分かった」
「は?」
「なんでもない。じゃあ、お願いしようかな」
「了」
まるで仕事の引き継ぎのように、電話番号を伝えると、東雲は私のスマホの上に指を滑らせた。
「着拒か、ブロックか、消去。今すぐ」
じっと見つめられ、後退する。
「グイグイ来るね……?」
「クソに悩む時間が勿体ない。トイレに流して終わり」
「汚いよ」
「その男、クソで十分だろ」
東雲はそう言って歩き始めた。元彼に関しては、私よりも、私以上に東雲が怒っている気がする。