レンアイゴッコ(仮)
「恋人みたい」といえば「もう少し恋人らしいことする?」と、フラットな声で提案された。
「恋人らしいこと?」
名前では呼ばないからね、と、聞く前から決定づけていると、東雲は静かに手を前に出して「ん」と促す。
大きな手のひら、長い指先。すんなりと、繋ぐ、に結びつく。
いつも書類を持って仕事をしている手が、人に温度を分けるために使われようとしているのだ。
名前を呼ぶことよりも容易な気がした。バス停までせいぜい200mだし、アルコールによる後押しもあったと思う。
その手のひらに自分の指先を乗せると、すんなりと繋がる。東雲って暖かいと思ったら意外と体温が低い。それから、
「ちょっとまって、やっぱり、無理……」
唐突に手を引いた。手を繋ぐだけでこんなにダイレクトで体温が伝わってくることを忘れていた。手を繋いだ記憶が遠い。
「なんで逃げんの」
なのに、待ってくれない東雲は、宙に浮いていた手を掴むようにして握る。
それから「行くよ」と続けて半ば引っ張るように歩き出した。
「いや、待って、ほんとに無理恥ずかしい」
「このくらい、慣れてくれないと」
というか、慣れているのは東雲の方だ。
女の子の扱いが慣れ過ぎだ。