レンアイゴッコ(仮)
薄闇の中で慎重にベッドまで移動した。横たわる東雲は三秒で眠りにつくなんて特技は持ち合わせていないらしぬ、寝息なんて聞こえない。

膝を立てて床に座り、東雲の背中へと手を伸ばす。

「……東雲」

骨ばった背中からは返事は聞こえない。何度か心の中で練習した。

人生は期待と諦めの連続だ。

「東雲 琥珀」

「……」

期待を込めて再度、練習。

──……「琥珀」

これで返事がなかったら諦めよう。

「……なに」

振り返ることなく返された返事は素っ気ないけれど、とても早くて、'諦める'という選択肢が消えた。

「……もう知ってるかもしれないけど、私、結構面倒な性格をしているの」

「面倒ってレベルじゃねえよ。クソめんどくさい」

呆れ返った声に、だよね、と頷く。

「付き合う人には誠実でありたいけど、逃げたくなったらすぐ現実逃避しちゃうし、良かれと思って価値観を押し付けてしまう時があるの」

「……で?」

「東雲は、私に期待しないでよ」

「期待って、なに」

「誰かの期待外れになるのって、怖いんだから」

消えそうになる語尾を何とか紡いで俯いた。
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