レンアイゴッコ(仮)
先程とは別の、奇妙な緊張感が漂うことに気づいた。舌先に辛みまで感じた。この感覚を、私はよく知っている。

誰かに期待されて、応えられなくて、自分の手の中で粉々に消えていく感覚。

シーツをぎゅっと握りしめていれば、不意にベッドが揺れた。東雲は気怠いモーションで身体を起こすと後頭部の髪の毛を掻き分け、胡座をかいた。東雲の背後は窓だ。カーテンから月の光が漏れて、東雲の華奢な身体を照らしているのを見た。

「何を自分語りを始めたかと思えば、自意識過剰過ぎだろ」

肩を竦められ、うぐ……、と言い淀む。
これは仕事でも経験がある。自分の能力とキャパシティを理解しろと言われた。

「こ……こっちは真剣なの」

「そう。ご苦労さん」

熱量の差に負ける。東雲は氷、私は熱湯、当たり前だ。

「真面目に聞いてよ」

けれど、仕事では折れてもプライベートまで諦めたくないから続けた。

「あのな、こっちは妃立のクソめんどくさい性格わかった上で付き合うって言ってんの」

「(そうなんだ)」

東雲琥珀は懐の深い男、という情報を得る。
得たおかげで、弱くなった部分が露呈され、不意に涙腺を刺激した。


「他人の勝手な願望も全部妃立柑花の一部であって、それを他の男は期待はずれと言っても俺は絶対に言わないから、その考えは今後一切必要ない」
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