レンアイゴッコ(仮)
導火線
𓂃𓈒 ❅ *
『……すっげえ可愛いんですよ』
あの日、東雲の横顔が赤かったのは、お酒のせいだけじゃない。
『甘えベタで、一人で何でも抱え込もうとするから、放っておけない。……たまーに気を許してくれると、凄く嬉しいんですよね』
普段素っ気ない東雲は完全に酔うと、ガードが緩くなって、緩くなったガードを完膚なきまでボロボロまで崩すとと、ごく稀に好きな人の話をする。
私は少し離れた場所で、また部長の格好の餌食になってるわー……なんて、東雲の赤く染った頬を眺めていた。
まるでクシャクシャに丸めたテスト用紙を、丁寧に丁寧に手でシワをとるように、好き、をなぞる。
『東雲さんも、好きな子にはあんな顔見せるんですね』
その事実を初めて知る鈴木は、ゴシップ記事の感想みたいにポツリと零した。
『昔からなんですか』と言われて『そうね、昔からね』と、昔って何時からだっけと自分の記憶をなぞってみたら、半年や一年の話じゃないし、かと言って、意中の彼女と東雲が両想いになったという話も聞かないなとぼんやり思っていた。
「(東雲の好きな人って、誰なんだろ)」
聞いてもはぐらかされてしまって、また今度東雲を酔わせて聞こうとしても、彼氏の好きな人、なんて、聞きにくいにも程がある。