レンアイゴッコ(仮)
………………抱きしめるって、言った?


「……え?あの、合鍵を預ける話だったよね?」


混乱してしまうのも、無理はないだろう。だって、そんな理由になる話なんて1ミリも軌道に乗っていなかったはずだ。

すると突然、充電不足になったのか東雲は私の方へ倒れ込み、肩口に額を押し付けた。

「……っ!?」

何度目か分からない予期せぬエラー。心臓が高鳴るのは当たり前で、頭の中はバグでも引き起こしたかのように、真っ白になる。

東雲がぎこちなく顔を動かすと、至近距離で視線が絡む。


「──……駄目?」


甘く掠れた声と、ほんのりと赤らんだ頬。

普段冷静沈着で、どんな相手でも物怖じしない東雲が、窮屈そうに身をかがめては、よりによって私を抱きしめる為だけに許しを乞いている。

反則でしょう、その顔。

「ご……5秒だけ、なら」

乙女顔負けの破壊力に負けるのは必然だ。

すると突然、ドサッと軽い落下音が聞こえた。手に持っていたバッグと、腕に掛けていたジャケットが落ちたのだろう。

……落ちたの?
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