レンアイゴッコ(仮)
𖦊̌

彼氏という名前だけじゃあ彼女を抱きしめる理由にもならなくて。

自宅の玄関を閉めるとようやく脱力させて、扉に背中を預けてずるずるとしゃがみ込んだ。

「……細すぎだろ……」

残念ながら帰り道の記憶が無い。なのに、抱きしめた時の彼女の感触を腕はまだ覚えている。

次回までどう平然を装えばいいのか分からない。ヘマをしたらどうする。また警戒されて距離を置かれたら泣く自信がある。

「どうする、俺……」

ため息、妄想、そろそろ終わってくれ。

鍵を取り返すと言われ、ずっと俺の家に居てもいいのにと、どうして言えただろう。

彼女を泣かせた男のことなんて、一ミリも考えさせたくなかった。

だから俺が受け取ると言った。あの男を妃立の視界にも入れたくなかったし、俺が離れた時にナンパもされたくなかった。男から距離を置くと、イヤホンを入れるように指示した。
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