レンアイゴッコ(仮)
「あんた誰?柑花は?」


妃立の元彼は、俺が来たことに酷く驚いていた。柑花、と自然に出るその呼び名にイラついた。妃立柑花の彼氏だと言えば男は目を疑っていた。


「さっさと鍵返せ、ほら」


それだけ言うと、男は鍵を渡した。俺はやり場のない怒りの行き場を手のひらに込めて鍵を握りしめた。

「柑花、どうしてる?」

「答える義務は無い」

「あんなことしちゃったもんな……なあ、柑花はどうせ俺の愚痴言ってるんだろ?言ってよ柑花に。お前に付き合うのも辛かったって、つまんなかったって。柑花、可愛いけど自己中だからお前も苦労するんじゃね?」

やった方はすぐに忘れる。相手に、一生残るような傷を付けておいて。

だから俺は笑った。妃立に会わせなくて良かったと、俺の行動は間違いじゃ無かったと確信したからだ。

「安心してよ。俺はあの子にどこまでも付き合うし、それをつまらないとは思わない。良かったな、お前の取り越し苦労ってやつで」

「……は?」

「未練も無さそうで安心したわ。じゃあ、今後一切妃立柑花と会うなよ」

高い位置から男を見下ろして圧力を掛けたのも、妃立には絶対に秘密だ。あんな男に奪われていたことも腹立たしいけれど、別にいい。

もう既に、俺の導火線には火がついてしまったのだから。
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