レンアイゴッコ(仮)
「は?香水?」
興味の矛先である東雲も、鈴木の質問に面食らっていた。
「毎回思ってたんですけど、東雲さん、めっちゃいい匂いしますよね」
「そうかな。……妃立はどう思う」
「……は?」
なぜ私に聞く?
質問の対象は東雲で、私じゃないはずだ。
なのに東雲はすっとスーツの袖口を引くと、私の目の前にほっそりとした仄白い手首を差し出すから、当たり前に驚く。
「この匂い、好き?」
「ああ、うん。好き」
正直、匂いどころじゃない。骨ばっているのに浮き出た血管。東雲のパーツは顔以外でもどこを取ってもうつくしくて、目のやり場に困る。
東雲は満足そうに手を引っ込めた。私の治安が平穏を取り戻す。
「ね、妃立さんも好きらしいし、俺にも教えてください」
「やだね」
しかも、心が狭い東雲くんになってるし……。
「鈴木、香水って使う人によって匂い変わるらしいよ」
追い打ちをかけるように坂下先輩が言うので、鈴木は明らかに落胆していた。
「……ていうか東雲、ここにいて大丈夫なの?」
その様子を横目にこっそりと耳打ちした。