レンアイゴッコ(仮)
東雲は一瞬眉を顰めて目を伏せるとグラスを傾けた。華奢なのに男らしく尖った喉仏が上下した。目に悪い。

「逃げてきたんだよ」

──……あの女性社員たちから?

「なんで?」

当たり前の疑問。

「興味が無いことで声帯を使いたくない」

話したくないならまだしも、声帯を使いたくないって理由は東雲にとって普通なのかしら。

それに、と、東雲は私の耳に顔を近づけた。

耳たぶに吐息が掛かって、驚いて後退した。その隙に東雲と私の間に置いていた方の手が覆われた。よく知る体温だった。

耳が熱い。手の甲はもっと熱い。

吐息のような声が届いた。


「彼女なら、助けて」


ここで彼女の立場を利用されるなんて、反則である。
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