レンアイゴッコ(仮)
左半身にどこはかとなく圧を感じるのは気のせいか。いや、気のせいじゃない。

私を包み込む大きな手に力が込められて、今すぐ理由を話せと言われているようで、いたたまれない。

些細な抵抗として、手の中で拳を握りしめた。

「実は……坂下先輩が知っている彼とは、お別れしたんですよね」

「え、そうなの!?」

「……はい。色々あって」

“色々”に色々なかたちの感情を詰め込んで雑に説明すると、意見したのは坂下先輩よりも鈴木の方が早かった。

「でも、妃立さんならすぐ彼氏できるでしょ」

「なんの根拠があるの」

「だって、社内でも超モテモテじゃないですか。俺の同期で妃立さんのこと狙ってるやついますよ、普通に」

ごめんなさい。それは初耳である。

そして無口な東雲がいつも以上に恐ろしくて左が見れやしない。

「でもさ、思うけど、社内恋愛なんてするもんじゃないわよ」

「なんでですか?」

「仕事でもプライベートでも恋人と顔合わせたくないでしょう〜。もし喧嘩でもしてみなさいよ。ギスギスして周りも気を遣う。地獄じゃない。妃立、やめてね!?」


ごめんなさい、もう遅いです……。

こんな本音、酔っ払い相手とはいえ、絶対に言えない。
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