コイワズライ
二つの足跡…包容力男子×不器用女子
「うおっ!みてみろよ、瑞稀!すげぇー!」
「わぁ…」
図書館を出ると辺り一面が真っ白になっていた。
「すごいね。初雪でこんなに積もるなんて」
いつもの風景が白銀の世界に変わりキラキラと光っている。子供のようにはしゃぐ彼がまっさらな白い並木道に足跡をつけていた。
「葉ちゃん 走り回ったらあぶなーーっ!?!?」
顔面に投げつけられた雪玉。慌てて払い落とすと目の前にはいたずらっ子のように笑う葉ちゃん。
「も~~~!!バカ葉~~~!!」
仕返しに追いかけまわして雪玉を投げるけれど軽やかによけられてしまう。次の雪玉を作っているとまた顔面に投げつけられる。
「瑞稀どんくせぇー!」
「うるさい!次は絶対あててやる!」
お腹を抱えてケタケタ笑う彼に雪玉を投げようと走り出した瞬間
「わっ!?!?」
盛大に前のめりにこけてしまった。
「どんだけどんくさいんだよ」
顔を上げると苦笑する葉ちゃんが手を差し伸べていた。その手をつかみおもいっきり引っ張ってやる。
「わわっ!?」
葉ちゃんも前のめりに雪の上にこけて、私たちは顔を見合わせて笑った。
***
雪遊びをして冷たくなった手をこすり合わせる。はぁー、と息を吐いて温めようとするけどなかなか温まらない。
「つめたっ」
葉ちゃんが私の左手を握り、その冷たさに驚いて、私の左手を葉ちゃんのダウンの右ポケットにつっこんだ。
「へへっ、おじゃまします」
「このポケットは瑞稀専用だから、おじゃましますじゃなくて、ただいま」
「ははっ、なにそれ。家みたい」
「そうだよ。このポケットは瑞稀の左手の家」
「わたし専用?」
「瑞稀専用。瑞稀の手しか入れない」
「そっか…わたし専用」
こんな風になんでもないことも特別にしてくれるから葉ちゃんといると幸せだなぁって感じる。
ポケットの中で手をつないで、真っ白な並木道を2人で歩いた。私より15センチくらい背が高くて歩幅も私より広いのに、いつも私に合わせて並んで歩いてくれる。あと何回、こうやって並んで歩けるのかな…
ふと振り返ると、雪道に2人分の足跡がついていて、それは図書館の方までずっと続いていた。たくさんの距離を歩いた感覚はないのに、ずっと続いている足跡をみて、けっこう歩いたんだなぁって実感して、ポケットの中でぎゅっと葉ちゃんの手を握る。
私をみて、ん?って首を傾げる葉ちゃん。
公園に寄って行こう、と歩き出した私に、ぎゅっと手をつなぎ返してくれた。
***
公園の木々や遊具にも雪が積もっていて、ベンチに積もった雪を2人で払いのけて座った。ジュースを買いに行くと葉ちゃんが自販機へ歩いて行った。私は、沈みかけている橙色の太陽をぼんやりとみつめていた。
水色とオレンジと紫のコントラストが綺麗で、この季節この時間帯の空が好きだ。
「わっ!?」
頬に暖かいものが触れて驚いていると、葉ちゃん|がニシシと笑ってココアをくれた。驚かされたのだから文句を言ってやろうと思ったけれどココアをくれたから許してあげよう。
「…ありがとう」
葉ちゃんの手にはおしるこ。
「またそれ?いつもおしるこで飽きないの?」
「冬はおしるこかコーンポタージュなんだよ。瑞稀こそ、いつもココアで飽きないの?」
「冬はココアかミルクティーなのだよ」
「おしるこもうまいのに…飲んでみる?」
「やだよ、味が混ざる」
「うまいものとうまいものを混ぜたら、さらにうまいものになるんじゃない?」
「えー!絶対変な味になるってーー」
ふわりとおしるこの甘い匂いがしたと思ったら葉ちゃんの唇が降ってきて、触れるだけのキスをして離れていった。
「ん~今のじゃわかんねぇな」
「こ、こら!こんなとこでなにしてーー」
またおしるこの甘い匂いに包まれて、さっきよりも長くて深いキス。頭の中がふわふわになって溶けてしまいそう。
「…っ、あまい」
離れた葉ちゃんは舌なめずりをして息を吐いた。
(わああああ…色気だだ漏れ…)
不意にキスをしたり男の色気をだしてくるから本当に困る。中学の頃から一緒にいるけどいつの間にこんな大人の男の人みたいな顔をするようになったんだろう。
「瑞稀?」
彼の射抜くような鋭い視線に耐えられなくて、背中を向けてココアを一気飲みした。
「…っごほっ…げほっ、ごほ」
むせた。
「大丈夫か?」
***
「そろそろ行こう」
ベンチから立ち上がり公園を後にする。
自宅までの道程を並んで歩いた。
「受験終わったらなにする?」
「ん~とりあえず寝る」
「言うと思った」
「葉ちゃんは?受験終わったらなにしたい?」
「買い物してカラオケして映画みて遊園地行って、旅行にも行きたい」
「ふはっ、忙しいね~」
「他人事みたいに言ってるけど、瑞稀もだよ?」
「ん?」
「さっき言ったやつ全部瑞稀と一緒に行くから」
「え~無理だよ」
「行くの!昨日張り切って旅行雑誌買ったし!」
ジャーンとカバンの中から旅行雑誌を取り出して私にみせる葉ちゃん。私は旅行雑誌をスルーし、葉ちゃんを置いてスタスタ歩く。
「瑞稀?」
すぐに追いついてきた葉ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「無理だよ、旅行なんて…お金ないし…時間も…」
「大丈夫だって。俺がなんとかするから」
ほら、と差し出された旅行雑誌をバシッと払いのけてしまい、バサッと地面に落ちてしまった。
「……ごめん」
落ちた雑誌を無言で拾う葉ちゃん。眉を下げて悲しそうな顔をしている。
「なんか、嫌なの。無理やり思い出作りしに行くみたいで…」
「そんなんじゃないよ」
「うん…ごめん」
私たちは今受験生で無事に桜が咲けば大学に進学する。私は地元の大学へ、葉ちゃんは県外の大学へ。春になれば離れ離れになり、今みたいに簡単に会えなくなる。
中学の頃から付き合って当たり前のように隣にいて笑っていたのに。もうそんな日々は続かない。葉ちゃんが傍にいない毎日なんて考えられない。一生会えなくなるわけじゃないのに、離れ離れになるという現実を受け止めきれない。
要するに私はこどもなんだ。葉ちゃんは一緒にいられる時間を大切にしようと笑顔でいてくれているのに。
ふわりと葉ちゃんの腕に体が包まれる。
「ずっと不安だったんだろ?…瑞稀、あんまりそういうこと言わないから、また溜め込んでんのかなって思って」
だめだ…苦しい。胸が苦しくて泣きそう。
「不安だとか寂しいとか、我慢すんなよ。今みたいにぶつけてくれていいから。溜め込むの、瑞稀の悪いクセだぞ」
優しい優しい葉ちゃんの声で、私の目からは堰を切ったように涙があふれた。
「だって…言えないよ……葉ちゃんはずっと笑顔だから…私もなるべく笑顔でいようって…思って」
ぎゅっと強く抱きしめられて、私も葉ちゃんの背中に腕を回した。
「ばーか。瑞稀はもっと甘えていいの。もっと俺に頼っていいんだぞ?」
「…そんなの、どうしたらいいか…わかんないよ」
そっと腕を解いた葉ちゃんは私の泣き顔をみて優しく笑ってくれた。
頬に光る涙の跡にそっとキスをして、しょっぱいってまた笑った。
「本当に瑞稀は甘え下手だな~不器用だし、どんくさいし~」
「うぅ…だってしかたないでしょ…それが私なんだもん」
「思ったことを口に出して言ってみな?」
「思ったこと?」
「うん。今、どんなこと考えてんの?」
「今は……」
「ほら、なんでも言ってみ?」
「……葉ちゃん、すきだなぁって思った」
「え…」
「な、なによ…思ったこと言えっていうから」
「(それにしても直球すぎる。やばい。かわいい!!)……あぁ、えーっと…俺もすき」
「そんな取ってつけたように言わなくてもいいよ…」
「ほ、ほんとだって!瑞稀がすき…」
いつも笑顔の葉ちゃんが慌てて真っ赤な顔して言うから
「葉ちゃんが…すき」
背伸びをしてキスをした。
「瑞稀~~~~~」
ぎゅうぎゅう抱きしめられて、痛い、バカ!って叩いたら、なぜかお姫様抱っこされて。
「ちょっと、葉ちゃん!?」
「このままお持ち帰りすることにした」
「え~~~おろせ、バカ葉~~」
春になったら別々の道を歩くけれど
今まで一緒に歩いてきた足跡は消えないから
私たちは大丈夫
「わぁ…」
図書館を出ると辺り一面が真っ白になっていた。
「すごいね。初雪でこんなに積もるなんて」
いつもの風景が白銀の世界に変わりキラキラと光っている。子供のようにはしゃぐ彼がまっさらな白い並木道に足跡をつけていた。
「葉ちゃん 走り回ったらあぶなーーっ!?!?」
顔面に投げつけられた雪玉。慌てて払い落とすと目の前にはいたずらっ子のように笑う葉ちゃん。
「も~~~!!バカ葉~~~!!」
仕返しに追いかけまわして雪玉を投げるけれど軽やかによけられてしまう。次の雪玉を作っているとまた顔面に投げつけられる。
「瑞稀どんくせぇー!」
「うるさい!次は絶対あててやる!」
お腹を抱えてケタケタ笑う彼に雪玉を投げようと走り出した瞬間
「わっ!?!?」
盛大に前のめりにこけてしまった。
「どんだけどんくさいんだよ」
顔を上げると苦笑する葉ちゃんが手を差し伸べていた。その手をつかみおもいっきり引っ張ってやる。
「わわっ!?」
葉ちゃんも前のめりに雪の上にこけて、私たちは顔を見合わせて笑った。
***
雪遊びをして冷たくなった手をこすり合わせる。はぁー、と息を吐いて温めようとするけどなかなか温まらない。
「つめたっ」
葉ちゃんが私の左手を握り、その冷たさに驚いて、私の左手を葉ちゃんのダウンの右ポケットにつっこんだ。
「へへっ、おじゃまします」
「このポケットは瑞稀専用だから、おじゃましますじゃなくて、ただいま」
「ははっ、なにそれ。家みたい」
「そうだよ。このポケットは瑞稀の左手の家」
「わたし専用?」
「瑞稀専用。瑞稀の手しか入れない」
「そっか…わたし専用」
こんな風になんでもないことも特別にしてくれるから葉ちゃんといると幸せだなぁって感じる。
ポケットの中で手をつないで、真っ白な並木道を2人で歩いた。私より15センチくらい背が高くて歩幅も私より広いのに、いつも私に合わせて並んで歩いてくれる。あと何回、こうやって並んで歩けるのかな…
ふと振り返ると、雪道に2人分の足跡がついていて、それは図書館の方までずっと続いていた。たくさんの距離を歩いた感覚はないのに、ずっと続いている足跡をみて、けっこう歩いたんだなぁって実感して、ポケットの中でぎゅっと葉ちゃんの手を握る。
私をみて、ん?って首を傾げる葉ちゃん。
公園に寄って行こう、と歩き出した私に、ぎゅっと手をつなぎ返してくれた。
***
公園の木々や遊具にも雪が積もっていて、ベンチに積もった雪を2人で払いのけて座った。ジュースを買いに行くと葉ちゃんが自販機へ歩いて行った。私は、沈みかけている橙色の太陽をぼんやりとみつめていた。
水色とオレンジと紫のコントラストが綺麗で、この季節この時間帯の空が好きだ。
「わっ!?」
頬に暖かいものが触れて驚いていると、葉ちゃん|がニシシと笑ってココアをくれた。驚かされたのだから文句を言ってやろうと思ったけれどココアをくれたから許してあげよう。
「…ありがとう」
葉ちゃんの手にはおしるこ。
「またそれ?いつもおしるこで飽きないの?」
「冬はおしるこかコーンポタージュなんだよ。瑞稀こそ、いつもココアで飽きないの?」
「冬はココアかミルクティーなのだよ」
「おしるこもうまいのに…飲んでみる?」
「やだよ、味が混ざる」
「うまいものとうまいものを混ぜたら、さらにうまいものになるんじゃない?」
「えー!絶対変な味になるってーー」
ふわりとおしるこの甘い匂いがしたと思ったら葉ちゃんの唇が降ってきて、触れるだけのキスをして離れていった。
「ん~今のじゃわかんねぇな」
「こ、こら!こんなとこでなにしてーー」
またおしるこの甘い匂いに包まれて、さっきよりも長くて深いキス。頭の中がふわふわになって溶けてしまいそう。
「…っ、あまい」
離れた葉ちゃんは舌なめずりをして息を吐いた。
(わああああ…色気だだ漏れ…)
不意にキスをしたり男の色気をだしてくるから本当に困る。中学の頃から一緒にいるけどいつの間にこんな大人の男の人みたいな顔をするようになったんだろう。
「瑞稀?」
彼の射抜くような鋭い視線に耐えられなくて、背中を向けてココアを一気飲みした。
「…っごほっ…げほっ、ごほ」
むせた。
「大丈夫か?」
***
「そろそろ行こう」
ベンチから立ち上がり公園を後にする。
自宅までの道程を並んで歩いた。
「受験終わったらなにする?」
「ん~とりあえず寝る」
「言うと思った」
「葉ちゃんは?受験終わったらなにしたい?」
「買い物してカラオケして映画みて遊園地行って、旅行にも行きたい」
「ふはっ、忙しいね~」
「他人事みたいに言ってるけど、瑞稀もだよ?」
「ん?」
「さっき言ったやつ全部瑞稀と一緒に行くから」
「え~無理だよ」
「行くの!昨日張り切って旅行雑誌買ったし!」
ジャーンとカバンの中から旅行雑誌を取り出して私にみせる葉ちゃん。私は旅行雑誌をスルーし、葉ちゃんを置いてスタスタ歩く。
「瑞稀?」
すぐに追いついてきた葉ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「無理だよ、旅行なんて…お金ないし…時間も…」
「大丈夫だって。俺がなんとかするから」
ほら、と差し出された旅行雑誌をバシッと払いのけてしまい、バサッと地面に落ちてしまった。
「……ごめん」
落ちた雑誌を無言で拾う葉ちゃん。眉を下げて悲しそうな顔をしている。
「なんか、嫌なの。無理やり思い出作りしに行くみたいで…」
「そんなんじゃないよ」
「うん…ごめん」
私たちは今受験生で無事に桜が咲けば大学に進学する。私は地元の大学へ、葉ちゃんは県外の大学へ。春になれば離れ離れになり、今みたいに簡単に会えなくなる。
中学の頃から付き合って当たり前のように隣にいて笑っていたのに。もうそんな日々は続かない。葉ちゃんが傍にいない毎日なんて考えられない。一生会えなくなるわけじゃないのに、離れ離れになるという現実を受け止めきれない。
要するに私はこどもなんだ。葉ちゃんは一緒にいられる時間を大切にしようと笑顔でいてくれているのに。
ふわりと葉ちゃんの腕に体が包まれる。
「ずっと不安だったんだろ?…瑞稀、あんまりそういうこと言わないから、また溜め込んでんのかなって思って」
だめだ…苦しい。胸が苦しくて泣きそう。
「不安だとか寂しいとか、我慢すんなよ。今みたいにぶつけてくれていいから。溜め込むの、瑞稀の悪いクセだぞ」
優しい優しい葉ちゃんの声で、私の目からは堰を切ったように涙があふれた。
「だって…言えないよ……葉ちゃんはずっと笑顔だから…私もなるべく笑顔でいようって…思って」
ぎゅっと強く抱きしめられて、私も葉ちゃんの背中に腕を回した。
「ばーか。瑞稀はもっと甘えていいの。もっと俺に頼っていいんだぞ?」
「…そんなの、どうしたらいいか…わかんないよ」
そっと腕を解いた葉ちゃんは私の泣き顔をみて優しく笑ってくれた。
頬に光る涙の跡にそっとキスをして、しょっぱいってまた笑った。
「本当に瑞稀は甘え下手だな~不器用だし、どんくさいし~」
「うぅ…だってしかたないでしょ…それが私なんだもん」
「思ったことを口に出して言ってみな?」
「思ったこと?」
「うん。今、どんなこと考えてんの?」
「今は……」
「ほら、なんでも言ってみ?」
「……葉ちゃん、すきだなぁって思った」
「え…」
「な、なによ…思ったこと言えっていうから」
「(それにしても直球すぎる。やばい。かわいい!!)……あぁ、えーっと…俺もすき」
「そんな取ってつけたように言わなくてもいいよ…」
「ほ、ほんとだって!瑞稀がすき…」
いつも笑顔の葉ちゃんが慌てて真っ赤な顔して言うから
「葉ちゃんが…すき」
背伸びをしてキスをした。
「瑞稀~~~~~」
ぎゅうぎゅう抱きしめられて、痛い、バカ!って叩いたら、なぜかお姫様抱っこされて。
「ちょっと、葉ちゃん!?」
「このままお持ち帰りすることにした」
「え~~~おろせ、バカ葉~~」
春になったら別々の道を歩くけれど
今まで一緒に歩いてきた足跡は消えないから
私たちは大丈夫