コイワズライ
『わたしだけの彼』…美青年×平凡女子

1

目の前の彼は笑顔を浮かべてじっと私をみている。いたたまれなくなって、うつ向いて目を閉じた。


「ねぇ、(こと)…話聞いてる?」


恐る恐る顔を上げると相変わらず笑顔で頬杖をついて私をみている。


(ひぇぇぇ~~~お願いだからみないで)


そんなキレイな顔でみつめられたら恥ずかしくて逃げ出したくなる。それぐらい(なお)くんはキレイで儚げで色っぽい。男の人にキレイだと言うのは変かもしれないけれど実際キレイなのだからしかたない。


「…(こと)は僕のこと嫌い?」


「き、嫌いだなんてそんな…」


ずっと憧れていたのだから嫌いなわけがない。


「だったらいいでしょ?」


薄く微笑んで首をかしげる。(なお)くんの一つ一つの仕草にいちいち見入ってしまう。本当に重症だ。


ふと(なお)くんから笑みが消え、長い指が伸びてきた。少し冷たい指先が私の頬に触れる。


真剣な眼差しから目をそらすことができなくて金縛りにあったみたいに身体が動かない。


身体は動かないのに心臓はどくどくと大きな音を立てている。触れられた頬が熱い。


(お願いだから静かにして…(なお)くんに聞かれちゃう)


はぁ、と小さくため息をついて(なお)くんの手が離れていった。


(どうしよう…呆れてるよね)


チラと様子をうかがうと、眉を下げて寂しそうに笑う(なお)くん。


「ごめん…唐突すぎた」


私の頭に手を置いてぽんぽんと優しく撫でながら


「困らせたいわけじゃないんだけど、あまりにもかわいいから…」


ぼんっと効果音が出るくらいに、一瞬にして私の顔は真っ赤になっているに違いない。


「…な、(なお)くん?なななにを言ってるんーーー」


「ぶはっ!」


私の顔をみて吹き出してしまい、ごめんごめんと謝りながら背中を向けて肩を震わせている。


((なお)くんが笑ってくれるのは嬉しいけれど、私の顔がおかしいからだよね?なんか複雑…)


「じゃあゆっくり考えて、明日返事きかせてね」


「明日!?」


(全然ゆっくりじゃないんですけど…)


「今夜でもいいけど?」


(いやいや、早まってるし…)


そしてまたクツクツと喉を鳴らして笑い、また明日ねと帰ってしまった。


帰っていく(なお)くんの背中をぼうっとみつめながらさっきの言葉を思い出す。


(こと)がすき…すきなんだ。』


頭の中で響く(なお)くんの優しい声に、ぎゅっと胸がしめつけられる。


「私も……すき…です」


声に出した途端にまた心臓が大きな音を立て始めた。


明日、(なお)くんに伝えられるかな…


「…無理だよ…絶対」

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