コイワズライ

3

下駄箱に着き(なお)くんと別れてから靴を履き替える。教室に向かう途中、廊下でバタバタと何人かの女子に追い抜かれた。女子たちはチラと後ろを振り返って、そのうちの1人と目が合った。


「なんだ、たいしたことないじゃん」


「ふつうだよね」


「あれで(なお)くんと付き合えるなら私らにもチャンスあるよ」


笑いながら去って行った。おそらく(なお)くんと同じクラスの人たちだろう。


目が合った瞬間、なんだか怖くて下を向いた。私を品定めするような彼女たちの視線が痛くて。


「わかってるよ、そんなこと」


自分のことは自分が一番わかっている。
特に美人というわけでもなくスタイルがいいわけでもない。ぱっとしない普通のどこにでもいそうな子。そんな私が(なお)くんにつり合うわけがない。


それなのに、舞い上がってドキドキして


「バカみたい」


スカートのポケットでスマホが震えた。みると、(なお)くんからメッセージがとどいていた。


『放課後、屋上でまってる』


私は返事をかえさなかった。


***


(こと)~帰らないの?」


肩を揺すられて顔をあげると友達のミナが心配そうな顔で私をみていた。


「体調わるいの?」


「ううん、大丈夫」


教室には私とミナの2人だけで、窓の外はすっかりオレンジ色になっていた。


え!?何時間ぼんやりしてたんだろう!


「ミナ部活終わったの?」


「そう、今から帰るとこ。(こと)も一緒にーー」


「ごめん、私大事な用があるんだった」


立ち上がるとカバンを手にし、ミナにバイバイをして急いで教室を出る。バタバタと廊下を走り、屋上への階段をあがる。屋上へつづくドアの前で立ち止まった。


この先に(なお)くんがいるんだ。あぁ、緊張する。帰りたい。
このまま帰っちゃったら(なお)くんおこるよね。それはさすがにまずいよ。何も言わずに帰るなんて、人としてどうなの。
いや、もしかしたらもう帰ってるかも。(なお)くん、待たされるの嫌そうだからおこって帰っちゃったかもしれない。それはそれで、こわいなぁ…


とにかく行かなきゃ


深呼吸をして心を落ち着かせる。


よし!


ドアノブをぐっと握ると勝手にノブが回りドアが開いた。


「あ」


ドアの外には(なお)くんがいて、少し驚いた顔をした。


「もう来ないかと思った」


寂しげに笑って胸をなで下ろす。いつもより下がった眉が悲しくて。待たせてしまったことを謝りたいのに、なぜか言葉がでてこなくて。屋上へ出る(なお)くんの後を黙ってついていった。
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