コイワズライ

3

冷たい…


いつの間にか優斗(ゆうと)の傘から飛び出して全速力で走っていた。


「あずさーー待てって!」


優斗(ゆうと)の呼びとめる声にハッとして、校門を出たところで止まる。後ろを振り返ると優斗(ゆうと)が追いついてきて、私を傘に入れてくれた。


「ハァハァ…っ、急に走り出すから」


「ハァ…ごめん」


息を整えると、濡れて額にくっついた私の前髪をそっとわけてくれる優斗(ゆうと)


(みなと)とケンカ?」


「ううん…なんかあの場にいたくなくて、逃げちゃった」


「そっか」


「あ!もしかして彼女と待ち合わせしてた?」


「あぁ、別にーー」


「ごめん!学校戻って!彼女待ってるよ」


「いや、でもあずさ…」


「走って帰るから大丈夫!足速いのが唯一の自慢だしね!」


「いくら速くても濡れるから」


「風邪ひいて休んだら私の分もノートよろしく!じゃ!ありがとね!」


「あずさ!?」


頭にタオルをかぶり優斗(ゆうと)の傘から飛び出して、また走った。


冷たいな。雨ってこんなに冷たかったかな。
目の前がゆらゆら揺れて、胸が苦しい。
なんで泣きそうになってるの…


灰色の空からゴロゴロといやな音が響いた。


「うぅ…もうやだ」


***


ピカッと空が光り地鳴りのような音が空気を震わせる。


「ふっ…うぅ、早くおさまってよ~」


今度ははっきりと灰色の空に稲妻が光った。さっきよりも凄まじい音が響いて、膝を抱いてそこに顔をうめる。


学校からマンションへの帰り道にある公園、その中にあるタコのすべり台。雷がこわくてタコの中に逃げ込んだけど、なかなか雷鳴がおさまらなくて、ここから出られずにいる。


「……(みなと)たすけて」


私の小さな呟きは激しい雨音にかき消された。


今頃あの子と一緒に…考えたくないのに勝手に頭が想像してしまう。


「やっぱり、ここにいた」


聞きたかった低くて優しい声。顔をあげると優斗(ゆうと)の傘をさした(みなと)が立っていた。


優斗(ゆうと)が怒ってたぞ。あずさは最後まで話きかない、せっかちすぎるって」


傘を閉じてすべり台の中に入ってきた。


(みなと)…なんで?あの子と一緒に帰ったんじゃーー」


「断った。あずさのことほっとけないからな」


「なにそれ、大きなお世話」


「雷こわくて泣いてたくせに」


(みなと)の指がそっと涙を拭ってくれて、ガキの頃からかわらないなって笑うから、うるさいって悪態ついてそっぽを向いた。
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