コイワズライ

ヘドロの後処理をして側溝の蓋を元に戻す。コンビニにシャベルを返却。


「キレイになりました」


コンビニのトイレでリングを洗った隼人(はやと)が戻ってきた。


「みせてみせて!」


キレイになったリングは石けんの匂いがした。


(あれ?これいつも付けてるやつじゃない)


内側に“10.22 HAYAT”と刻印が入っている。


「幼なじみがくれたやつで、刻印が中途半端なとこで終わってるんですよ。あ、俺の名前隼人(はやと)なんですけど、HAYATで止まーー」


(うわ!だめ。泣きそう)


「そっかぁ~これ、返すね。ありがとう!じゃあ私、急ぐから!」


「え?お姉さん!?ちょっとーー」


リングとカーディガンを隼人(はやと)に返し、逃げるように慌ててその場を後にした。


なんだよアイツ!私が去年の誕生日にあげたリングを必死に探してたのかよ!刻印が中途半端でだせぇとか言ってたくせにちゃっかり大事にしてんじゃねぇよ!バカ!


***


ーー誕生日当日、教室にて


「いい加減立ち直ってよ。みてるこっちが気分悪いんですけど」


「うるせぇ。みなきゃいいだろ」


ぼーっと窓の外をみつめてため息をつく。失恋した時のお決まりの隼人(はやと)の姿。


どうやら隼人(はやと)はリングを一緒に探してくれたティッシュ配りのお姉さんーーつまり変装した私に恋をしてしまい、名前も連絡先も聞けなかったことを悔やんでいるようだ。


それ私だよって言ってしまいたいけど言ったら負けたみたいで正体は明かしていない。なんか複雑


「そのうちひょっこり会えるかもしれないよ?案外近くにいたりして…ねぇ(あゆみ)?」


「そ、そうだね~(冬馬(とうま)気付いてる)」


「そんな偶然あるわけないけどさ、もしもひょっこり会えたとしたらその時は…」


「「その時は?」」


「とりあえず連絡先聞く!」


「なんじゃそりゃ。プロポーズする勢いで言わないでよ。期待しちゃうじゃん。ねぇ(あゆみ)?」


「はははは(冬馬(とうま)楽しんでやがる)」


確かにちょっと期待しちゃったけど…って隼人(はやと)になにを期待するんだよ!


「まぁこれあげるから元気だしなよ」


私が苦労して買ったプレゼント、なんちゃらっていうブランドのなんとかっていうスニーカー、キレイに包装された箱をどんと机に置いた。


「渡し方が雑」


いつもなら包みを開けて中身をみて驚く隼人(はやと)の顔をみるのが楽しみなんだけど、今日はなんか恥ずかしくて。プレゼントを押し付けて教室を出た。


やばいな、芽生えちゃったよ。色々と…
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