コイワズライ
3
「そろそろ行こう」
ベンチから立ち上がり公園を後にする。
自宅までの道程を並んで歩いた。
「受験終わったらなにする?」
「ん~とりあえず寝る」
「言うと思った」
「葉ちゃんは?受験終わったらなにしたい?」
「買い物してカラオケして映画みて遊園地行って、旅行にも行きたい」
「ふはっ、忙しいね~」
「他人事みたいに言ってるけど、瑞稀もだよ?」
「ん?」
「さっき言ったやつ全部瑞稀と一緒に行くから」
「え~無理だよ」
「行くの!昨日張り切って旅行雑誌買ったし!」
ジャーンとカバンの中から旅行雑誌を取り出して私にみせる葉ちゃん。私は旅行雑誌をスルーし、葉ちゃんを置いてスタスタ歩く。
「瑞稀?」
すぐに追いついてきた葉ちゃんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「無理だよ、旅行なんて…お金ないし…時間も…」
「大丈夫だって。俺がなんとかするから」
ほら、と差し出された旅行雑誌をバシッと払いのけてしまい、バサッと地面に落ちてしまった。
「……ごめん」
落ちた雑誌を無言で拾う葉ちゃん。眉を下げて悲しそうな顔をしている。
「なんか、嫌なの。無理やり思い出作りしに行くみたいで…」
「そんなんじゃないよ」
「うん…ごめん」
私たちは今受験生で無事に桜が咲けば大学に進学する。私は地元の大学へ、葉ちゃんは県外の大学へ。春になれば離れ離れになり、今みたいに簡単に会えなくなる。
中学の頃から付き合って当たり前のように隣にいて笑っていたのに。もうそんな日々は続かない。葉ちゃんが傍にいない毎日なんて考えられない。一生会えなくなるわけじゃないのに、離れ離れになるという現実を受け止めきれない。
要するに私はこどもなんだ。葉ちゃんは一緒にいられる時間を大切にしようと笑顔でいてくれているのに。