コイワズライ

希子(きこ)~予算案通ったぞ」


ノックもせずに入ってきたのは生徒会顧問の田中先生。数枚ホッチキスで束ねた紙をヒラヒラさせて、ほれ、と私に手渡す。
受け取った紙には確かに校長の承認印が押されていた。


「やった~さっすが田中先生ありがと!」


「少ない予算でよくこれだけ企画できたな。すげぇわ」


「ウチには敏腕会計係がいるからね」


「それ作るの苦労しましたよ」


冬馬(とうま)がアクビをしながら生徒会室に入ってきた。


冬馬(とうま)のおかげだよ!ありがとう!」


「…」


「ふはは。まあ頑張れ若人よ」


さっさと出て行く田中先生。


「あの先生やる気あるんだかないんだかよくわかんないよね」


「…」


冬馬(とうま)?」


「え?あぁ、田中先生は良い先生ですよ」


「会長よりは全然まともだよね」


「そういえば最近見かけませんね」


「文化祭近いからね~逃げてるんだよ」


「最低ですね」


ウチの生徒会は会長がほぼ未活動。モデル並に高身長な爽やかイケメンの上にアイドルのような愛嬌を併せ持つ彼は、その容姿と明るい性格で女子の票を集め生徒会長選を勝ち抜き会長に就任。が、優れているのは容姿のみ。統率力も企画力も行動力もない彼に生徒会長なんて務まらない。とりあえず形だけの生徒会長として在籍しているが生徒会活動には一切関わっていない。


実際に活動しているのは副会長の私と庶務のミナミくん(3年)、会計の冬馬(とうま)(2年)と書記のモモちゃん(1年)。4人で活動しているのが現状だ。


希子(きこ)先輩が会長やればいいのに」


「…私じゃダメなんだよ」


「会長の人気ですか」


「今の生徒会に活気があるのって会長人気のおかげだから、人前に立つ時はあの人にやってもらわないと」


「でもその挨拶文とか進行表を作るのは希子(きこ)先輩でしょ?なんか納得いかない」


「私らも会長人気を利用して活動してるから、お互いさまでしょ?」


「あの人の人気を利用しなくても充分活動できると思います」


「活動はできるけど今みたいに充実していないだろうね」


「だけどー」


「はい!この話は終わり!やること多いんだから手を動かしましょ~」


希子(きこ)先輩」


冬馬(とうま)のモヤモヤは私もよくわかるよ。理不尽だ!って投げ出したい時もあるけど、今は目の前のことを頑張ろう!」


「…はい」


「よしよし。文化祭成功させようね!」


渋々だけど笑ってくれた冬馬(とうま)に救われた。私も今はいっぱいいっぱいだから。
< 36 / 64 >

この作品をシェア

pagetop