コイワズライ

私の手を引いてズンズンと前を歩く冬馬(とうま)


「さっきの人、前に告白してきた人ですよね?」


前を向いたまま話す冬馬(とうま)、歩くペースが早くてついていけず小走りになってしまう。


「よく覚えてたね」


希子(きこ)先輩、あの人のこと振ったんでしょ?…もったいないことしたって思いました?」


「え?」


急にぴたりと立ち止まり、私を振り返って真っ直ぐに見つめる。握られた手にぎゅっと力が込められる。


「…思いました?」


冬馬(とうま)?」


「っ、すみません。今のは忘れて下さい」


これ、と冬馬(とうま)から渡された紙袋にはタコ焼きとお茶とクッキーが入っていた。


「タコ焼き食べたいって言ってたから…」


「ありがと」


「屋上ならたぶん誰もいないと思うのでそこで休憩してください」


「休憩なんてしてられないー」


「その分俺が動きます。先輩朝から走り回ってるでしょ?ちゃんと休まないと倒れますよ」


そう言ってまた人混みの中に戻って行った。


倒れたら皆に迷惑かかるもんね。
冬馬(とうま)の厚意に甘えることにして屋上に向かった。


冬馬(とうま)の言う通り、屋上には誰もいなかった。さっきの賑やかさが嘘のようだ。


「はぁ~美味しい」


タコ焼きを口に含むとソースの味が口の中にひろがった。


食べたい時に食べたいものが食べれるって幸せだ~冬馬(とうま)に感謝だな


そういえばさっきの冬馬(とうま)、今まで見たことない顔してたな。すごく寂しそうな表情で見つめられて胸の奥をぎゅっと掴まれたみたいに苦しくなった。
サッカー部の人に助けられたことより冬馬(とうま)のせつない表情が気にかかる。


「ん?」


ポケットで震えたスマホ、モモちゃんからSOSの電話だ。残りのタコ焼きをお茶で流し込みモモちゃんの元へ急いだ。


***


「あ~終わった」


慌ただしい文化祭が終わり後夜祭の片付けもそこそこに生徒会室へ戻る。


「ふくかいちょ~おつかれさまでした」


同じく疲れた様子のモモちゃんが温かいコーヒーをいれてくれた。


「モモちゃんおつかれ」


コーヒーを飲みホッと息を吐く。


「あ゛~疲れた体にしみわたる」


「おばさん通り越しておばあちゃんみたいになってますよ」


コーヒーを飲み終わった冬馬(とうま)が苦笑している。


「もういいよ、おばさんでもおばあちゃんでも…あ、もう8時じゃん!モモちゃん帰りな。ミナミくんおくってあげて!」


先に2人を帰し、私と冬馬(とうま)で整理をして慌てて学校を出た。

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