コイワズライ

辺りはすっかり真っ暗になっており冬馬(とうま)に手を引かれながら夜空に浮かぶ月を見上げていると突然ぴたりと歩くのをやめた。


ゆっくりと振り返りまたあの寂しい表情で私をみる。


「ごめんなさい、余計なことしちゃいました」


「ううん、冬馬(とうま)がビシッと言ってくれてスッキリしたよ」


「…本当ですか?」


「うん」


「…よかった。あ、会長とヨリ戻したいってことは?」


「ないない!手、握られて鳥肌立ったもん!」


「あはは」


「で、“この人だけは絶対に譲れません”っていうのは?」


「それは…忘れて下さい」


「また?まあ、冬馬(とうま)が言いたくないならいいけど」


「先輩」


「ん?」


「…すき、です」


「え?」


「…あー言っちゃった」


突然真剣な顔をしたと思ったら告白し、真っ赤な顔を覆い隠してその場にかがんでしまった。私も彼と同じ目線になるようにかがむ。


「…言うつもりなかったんですよ。本当はもっと、先輩に似合うようなかっこいい男になってから言うつもりだったのに」


膝に顔をうめてブツブツと呟いている。


「なのに、先輩モテ始めるし…他の人にとられたくなくて焦ってタイミング失敗した」


「失敗、でもないかもよ?」


「…え?どういうー」


顔を上げた冬馬(とうま)にそっと唇を重ねた。冬馬(とうま)はますます真っ赤になり目をパチパチさせて混乱している。
私は照れ隠しにゴホンッと咳払いして立ち上がる。


「一つ気になってたんだけど、冬馬(とうま)って皆に優しいのに私にだけそっけないよね?なんで?」


「それ、答えなきゃダメですか?」


「ダメ」


同じように咳払いし、話し始める。


「ただの優しい後輩じゃ先輩の目に留まらないと思ったんです。だから、わざと他の人とは態度を変えて…あー恥ずかしい」


「なるほどね~」


「自分でもバカだなって思います。でも、始めたらやり通すしかなくて」


「その作戦効果あったと思うよ」


ずっとかがんでいた冬馬(とうま)がゆっくりと立ち上がりぎゅっと私の手を握った。


希子(きこ)先輩、すきです」


「はい…ふふっデジャヴ」


「ちょ、せっかく人が真剣に話してるのに。会長と一緒にしないで下さい」


不貞腐れながらもぎゅっと私を抱きしめて、もう一度耳元で、すきですと伝えてくれた。
甘い甘い冬馬(とうま)の声にドキドキして私もぎゅっと抱きしめかえした。


嫌いな人だとあんなに気持ち悪かったのに、好きな人だとこんなに幸せになるんだね
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