コイワズライ

5

目の前の彼は真剣な顔で私をみつめている。


(えっと…今なにが起こってるの?)


今日1日でいろんなことが起こりすぎて頭の中がごちゃごちゃしてる。キャパオーバーでパンク寸前。


「…付き合ってください」


さらに追い討ちをかける言葉がとどいて、ぎゅっと手を握られてもうなにがなんだか…


「………も、もしかして、メガネを弁償するかわりにしてほしいことって…これ?」


途端に優斗(ゆうと)くんの顔が耳まで真っ赤になってうつ向いてしまった。


「……ごめん。それは忘れて」


てっきり乗っかってくるのかと思ったのに。返ってきた言葉はすごく真摯なもの。


私もちゃんと向き合わなくちゃ


深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。落ち着け落ち着け…


「…どうして私なんか…どこがいいの?」


そっと顔をあげた優斗(ゆうと)くんは、真っ赤な顔のまままっすぐに私をみた。


「俺が落とした定期を沙良(さら)が拾ってくれて、渡してくれた時に指先があたって…それだけなのにすごい真っ赤になってたから、かわいいなって」


「定期…」


「たぶん、沙良(さら)は覚えてないだろうけど。」


「…うん…ごめんなさい」


「いや、沙良(さら)が謝ることじゃない。…それから沙良(さら)のこと目で追うようになって、2年で同じクラスになって隣の席になって話すようになって…沙良(さら)のこと知って、やっぱりすきだなって思ったんだ」


どうしよう…すごく嬉しい。
注目されるのが嫌だと思っていたのに、私をみつけてみていてくれたことが嬉しい。
優斗(ゆうと)くんにみつけてもらえたことが嬉しい。


「…優斗(ゆうと)くん」


私の右手を握っている優斗(ゆうと)くんの手に、左手をそっと重ねた。


「私をみつけてくれて、ありがとう……これからもよろしくお願いします」


「それって…」


今、はっきりと自覚した。
私は優斗(ゆうと)くんのことが…


「すき…です」


ふわりと頬を包まれて
こつんと額をあわせて
目が合って笑い合う


話しやすいと感じていたのは
私の中で特別な存在だからなんだよ


そう伝えたら優しく笑って頬にキスをくれた


メガネの奥の彼は
優しくてステキな私の…









「実はあのメガネ、伊達」


「近視じゃないの…?」
< 9 / 64 >

この作品をシェア

pagetop