ヨルの探偵Ⅰ
〈 ? side 〉
「あいつはまた、どこに寝に行ったんだ……!」
ふらふらと徘徊癖のある王様に、頭を抱えて言葉を零した。
ずれた眼鏡を直しながら、ふと窓に映った自分の姿を見ると、さながら子守りをする保育士のよう。疲れ気味じゃなく、疲れ切っている。
「もういっそ、GPSを付けるか……?」
本気でそう思ってしまうほどには、問題児に手を焼かされている。
ただでさえ留年して後がないというのに、徘徊してよく消える王様に、趣味がナンパだとキャッチアンドリリースを繰り返す困った同級生二人。
それに王様の弟であり、新入生のクールな彼は女が嫌い。静かなとこにいたいと、よくサボる。そして、もう一人の女嫌いな幼馴染にも手を焼く始末。
「俺は、保護者じゃないんだぞ。全く……」
とりあえず、一人ずつ見つけて居場所だけでも把握しようとため息を零しながら、俺は察しのついてる屋上に足を進めた。
屋上の扉を開けて、すぐ目に入ったのはスカスカの鞄を枕にして目を閉じてる今年入学したばかりの1年生の姿。
我が王様と似ていると言われれば似ていて、違うといえば違う。彼は、俺らの中ではまともな方だ。
「翔、またサボりか」
「……優介もサボりだろ」
「俺はお前らがすぐふらふら消えるからこうやって探してるんだ。……莉桜は?」
「知らない。来てないんじゃねぇの」
ふいっ、とそっぽを向いて授業に出る気のない様子に頼むからお前は留年してくれるなよ、と心の中で言葉を付け足す。
そんな俺の懇願が届くわけもない翔は、日に当たり、透けるような無造作なブロンズがサラサラと風に吹かれるのを鬱陶しそうに手で押さえて目を瞑った。
ごろ、と横になる翔の耳には、シルバーのピアスが2連で付いていて軟骨にも1つ。まだ中学生の彼に開けた王様の姿が目に浮かび、今度こそ大きくため息を吐いた。
日に日に言うことを聞かなくなる姿は、以前の王様そのもので、後を追いかけるようだ。
しかし、これはまだマシな方。
厄介なのがまだこれ以上にいるからな、と自分に言い聞かせて、寝ている翔に「次の授業は出ろよ?」と言い、次の問題児の元へ向かう。