ヨルの探偵Ⅰ


 静まり返った校舎の中。

 激情に狂った誰かが、声にならない声で叫んでは、恍惚の表情を浮かべて跪いた。

 よく、彼女が頬杖をついて眺めてる場所。

 彼女の座る椅子に、跪いて頬を擦り寄せ、ベロリと舐めた。

 何度も、何度も。


「美しいなぁ、私のベイビードール」


 狂気的な笑みを浮かべ、窓から覗く月に向かって語り掛けるその姿は人間とは思えない。

 気味が悪い。正気ではない。

 しかし、狂った歯車は止まらない。

 カチッ、カチッ、何度も脳内で音を出しながら廻る。


 ────事件まで、あともう少し。

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