ヨルの探偵Ⅰ
やっぱり短気で思い込みの激しいタイプだなと分析しつつ、それでも距離を縮めてこないあたり違和感を感じる。
こちらも予想してある程度の距離は取っていた。それなのに近付いては来ない。一定の距離感を保ったまま。少し、煽るような言い方をしても耐えるように今一歩足を踏み出さない。
……誰かに、何か忠告されてるような。
ストーキングされてる時もそう、一定の距離を保って姿を見せなかった。
「……まさか、」
「……?」
フラッシュバックのように、顔の見えないアイツの姿が浮かんで、ふと苛立ちが込み上げて拳を握った。
何が目的で、何をしたくて、何で?
理解できない行動に頭が痛くなる。しかし、今は考えてる時間が惜しいと我慢して本題に入ることにした。
急がないと、彼等が来ちゃうからね。
「黒幕は誰かわかったからさ、先生と直接やり取りして手引きした奴の素性を知りたいな。教えてくれるよね?」
「……どうだろうね」
「もちろんタダとは言わないよ。教えてくれるなら先生の恋人になってあげる」
寝返らせた方が早いと、手っ取り早く交渉に移る。相手の反応を見つつ、距離を一歩詰めた。
ガリガリの痩けた頬を掻くようにして、少し悩む様子を見せる相手に、また一歩詰め寄る。
せっかくの好機だ。逃せない。
「……どうする?」
「それは、本当に……? 嘘じゃない?」
「うん、ほんと」
そんなわけない。情報を貰ったら用済みだ。
本音を心の中で吐露しながらも、人畜無害の笑顔を貼り付けて、優位となる交渉の立場を崩さない。