ヨルの探偵Ⅰ
交渉するコツは、まずどのタイプか見極めること。ストーカー行為自体が好きな相手ならストーカー行為を公認にすればいい。
しかし、目の前の相手は最初から〝僕の〟って言ってた。つまり、私とどうにかなりたい。所有物、独占欲がある。そのための、ストーカー行為。
何が先かが重要。
ストーカー行為が目的なのか、ストーカー行為の相手が目的なのか。
「ほらほら、時間ないよ。私のこと所有したいんでしょ?」
「……そ、そうだよ。僕の、僕だけのベイビードールに、だからっ、」
「うん、じゃあ教えて……? ほら、私たちを引き合わせてくれた人に感謝しないとだもんね?」
段々と、距離が縮まる。
また一歩詰め寄り、もう手を伸ばせば届く距離まで近づいた。
そこで、漸く気付いた。
────なに、この匂い。
独特な甘い匂い。顔色の悪さ。目の隈。唾を何度も飲み込む仕草。
これだけ、禁断症状が出ていたのに気付かなかったなんて。距離を取ったのが仇になった。風上で匂いに気付くのが遅れた。どこまで情報が正しいかもう分からない。
計画が全てパーだ。まずい。
顔を上げて、こちらを睨んだ目の前の相手を見て一瞬でやられたと思った。
「……や、やっぱりアイツの言った通りだ。君は、嘘吐きだ!あの不良の奴等と……僕を、騙してるんだろっ! 嘘吐きだ! 嘘吐きだ!」
「先生、落ち着いて」
「お、落ち着けるわけないだろ! うわぁ、あ、ああああ! う、煩い! 何なんだ……っ!」
「……もう手遅れかな」
会話が成り立ってない。幻覚に幻聴。目の焦点も合ってない。
頭を掻き毟るようにして、錯乱する目の前の相手と距離を取って、スマホを取り出し目的の相手に電話を掛けた。