ヨルの探偵Ⅰ
だが、図書室を後にして探索を始めたものの一向に見つからない。
翔や莉桜、蒼依と違って、行動パターンが気まぐれでわからない恭はふらふらと徘徊しては絡まれて喧嘩している。
本人は寝たいだけだと豪語してるが、無自覚で人を煽っていることを俺は知っているから、誰かと喧嘩してないか常に不安だ。人をイラつかせる才能があると言っても過言ではない。
大抵、恭に会った人はその雰囲気に呑まれて傾倒するか、悔しがり嫉妬心で厭忌するかの二択だ。双方に当てはまるのは、誰も恭を無視できないという点だ。
本人も「無視すればいい」と言ってよく人を怒らせていた。
どうであれ、今まで俺の人生で、恭に関心がないという人は見たことがない。
「全く、いつもどこで寝てるんだ……」
「優介」
「はっ!? 恭いつからそこにいた!?」
中庭の渡り廊下で言葉を零しつつ歩いていれば、突如背後から自分の名前を呼ばれ、俺の心臓が過度に動いた。
神出鬼没もいいところだ。
俺は「気配を消すのはやめてくれ」と額を抑え俯き頼み込むが、当の本人は眠そうに欠伸をしてる。
少し長く緩いミディアムの髪は、何故かボサボサなのに気品を感じ、その髪から少し覗く目元は眠そうだが、鋭く切れ長で見つめられると圧倒される。
「聞いてないな、全く」
「……」
そもそも聞いてるんだが、聞いてないんだか無表情からは全く読めない。
男の俺でも、綺麗だと感じる顔立ちのせいか文句を言う気もなくなった。