ヨルの探偵Ⅰ
数コール。
低く威圧的な声がスマホを通して、私の鼓膜を震わせた。
《……ア? 何だよヨル》
「ちょっと聞きたいことあって。龍彦の縄張りとかで最近MDMAとかの合成ドラッグの残り物の混ぜ物が安値で売り捌かれてたりする?」
《なんで知ってンだよ》
「いや、今ね、目の前の男がまさにそれで中毒なってるんだよね。言い値で売るから情報吐かせてほしい」
《ハァ? 訳わかんねェ状況だな、……まァいいわ。今どこだ》
「がっこー。屋上にいるから一人清掃員の服装で寄越して」
《わかった。5分で行かせる》
話がわかるやつでよかった、と切れた通話音を聞いて空を仰ぐ。
そして蹲ってる目の前の相手に少しの同情を感じながら、彼らになんて言い訳しようかなと思考を巡らせた。多分だけど、蒼依くんあたりは突っ込んできそうだ。
できれば、龍彦のとこの奴らが目の前の相手を回収するまで来ないでほしいけど、どうやらもう無理そうだし。
「……嘘吐きは、あながち間違ってないなぁ」
そう呟いた時だ。
ふと、目の前の相手が立ち上がる気配がして、閉じてた瞼を開けた。
……おや? 暴走せずにそのままブツブツ言いながら蹲っててほしいんだけどな。
私って喧嘩とか弱いし、と聞こえてない彼に呟く。身体を左右に揺らして壊れた人形のような目の前の相手を空虚に見つめた。
何をしでかすかな? ぼーっと観察していれば顔を伏せたまま、スっと目の前の男は人差し指をこちらに真っ直ぐ向ける。
その行動に、無意識に嫌な予感がした。
でも、止めることは出来なかった。
「────嘘吐きは、地獄に堕ちろ」