ヨルの探偵Ⅰ


 紡がれた言葉は、私の心を抉るには充分すぎるものだった。

 頭が陶器で殴られたように、一瞬ぶれて真っ白になる。最悪だ。今すぐにこの煩い口を縫い付けて、屋上から落として、二度と話せないようにしてやりたい。

 湧き上がったどす黒い感情を押さえつけながら、階段を上る足音を聞いて、どうにか取り繕う。


「あはは、ウケる」

「──よる」


 ドアが開く音がする。顔を見なくてもわかる。

 やっぱり、か。一番最初に私を見つけるのは、彼だよね。勘は当たるもんだなぁ。

 ドアの前で少し息を切らせて珍しく焦燥感のある恭に、場違いな微笑を向けた。

 状況を読み込めないのか、恭はドアの前から動かない。眉間に皺を寄せた恭の後ろから、バタバタと階段を駆け上がる音がして、全員集合かと肩を竦めた。

 だけど、運が良かったらしい。目当ての人物も到着したようでスマホのバイブが鳴った。


「……え、月夜ちゃんと誰この男? なにこれどういう状況?」

「さぁ。まぁでも穏やかな状況には見えないね」

「……月夜」


 蒼依くん、優介くん、翔くんの順に言葉を発するけど、私はどれにも反応しなかった。

 莉桜くんだけは何も言わず、見つめ合ってる恭と私の動向を見守っている。そして、この沈黙を破ったのは私だった。


「さて、みんな帰ろっかぁ」

「は? イヤイヤ〜、こんなカオスな状況で帰るってマジ?」

「本気と書いてマジとよむ〜の、マジだよ〜!」


 慌てる蒼依くんに笑顔を向けながら、いつもと変わらない足取りでドアに向かって歩く。そして一番近い恭の腕を掴んだ。

 そして、ドアが後ろ手で閉まる瞬間──、声がして立ち止まってしまったのが、きっと悪かった。

 本当に、ツイてない。

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