ヨルの探偵Ⅰ
「────君は、幸せになれない」
その言葉が聞こえた瞬間、思った。
あぁ、煩い喉を掻っ切っとけばよかったと。
バタン。ドアが閉まる音がした。不自然に止まった足が鉛のように重い。だからだろう、不意に口をついて出た言葉は、取り繕うことが出来なかった。
「────……知ってるよ」
いつもなら茶化せるような言葉を、受け流すことが出来なかった。
明らかに動揺や困惑する彼らを前に、言及されるのはまずいと上手く働かない脳が言う。この場で一人だけ、私の背後にいて顔を見ていない恭の服の裾を引っ張った。
「よる」
「なんでもない。はやく帰ろ」
はやく、一刻もはやくこの場から去りたい。
その想いが伝わったのか、誰も何も聞いてくることはなかった。
階段を降りる際、すれ違った清掃員にも目も向けることもなく、別れ際の最後まで誰も口を開かず無言のまま、今日という日が終わった。
誰もの心に、一抹の不安を残して。