ヨルの探偵Ⅰ
猫のようなマイペースさを持つ恭に何を言っても無駄というのが一番の理由だが、本当に見た目だけはサバンナの王、ライオンのようだ。
自覚して勝手な行動を控えてもらいたいが、怠そうに空虚を見つめてる恭に声は届かないだろう。
どう考えても恭のものではないパーカーは誰のだと問い詰めつつ、俺は恭の手の中にある折りたたまれたメモに視線を落とす。
「恭、そのメモなんだ?」
「もらった」
「誰に?」
「知らねえ女。多分後輩」
もっと詳細に答えてくれてもいいのだが、ぽけっとした表情で抽象的にしか返答しないあたり、面倒なのだろう。
どうせそのパーカーも翔の勝手に持ち出して着てるんだろうなと推測できる。
あまり似合わない真っ黒のパーカーから目を背けつつ、そのメモに何が書いてあるのかと見せてもらえば、ただのスペルと数字の羅列。
見ても分からないそれに、首を傾げる。
「暗号か、何かか?」
ふざけてるのだろうか? と恭を見たが表情は変わらない。
もう一度メモに視線を落とすが、考えても一向にわからない。むしろ適当に書き込んだ落書きにすら思える。
そんな俺の様子を見てか、ようやく恭は事の顛末を話し始めた。