ヨルの探偵Ⅰ

────────────
────────


 日が暮れて、暗くなった店内をラベンダーの香りがするキャンドルが照らす。

 彼は、数時間前までいた彼女のことを思い出しながら甘いチョコレートを摘んだ。口の中に甘さが広がって、溶ける。

 それも一瞬、ドアの開く音で意識がそちらに向いた。


「マレ、まだチョコレートを食べてたんですか。食べ過ぎです。糖尿になりますよ」

「知ってるヨ。あーあ、今頃ヨルは食べられちゃってるんだろうナ、オオカミに」

「……ヨルも夜白も大丈夫ですかね。心配です」

「ハァ、お口が寂しい。……紗夜、コッチきて」


 心配そうに眉を下げた紗夜に、微塵も心配してない彼は、自分の側へと呼ぶ。

 それに、何も疑うことなく紗夜が近付くと、手を伸ばすと捕まえられる距離になった刹那、思いっきり腕を引かれ唇が合わさった。

 抵抗する間もなく、甘ったるいチョコレートの味が口に広がる。


「寂しい者同士、慰め合いっこシよ」


 拒否権なんてあるわけもなく、チョコレートのキスが全身に降り注ぐ。

 蠱惑な甘さが、月に溶けた。



< 157 / 538 >

この作品をシェア

pagetop