ヨルの探偵Ⅰ


 ダウンライトがほんのり場を照らす。

 足元が微かに見えるか見えないかの暗さに、まるで鮫がうろついているようで、唾を飲み込んだ。

 甘味の甘さとまた違った甘ったるい匂いに思考が支配されそうで、不安定になりながらも目の前の人物を見据えた。


「やぁ、新入り。蘭のエリアへようこそ」

「……どうも」


 想像より幾分か落ち着いて、こちらを見定める蘭という女に、目を離さないまま頭を下げる。

 バーカウンターでマティーニを口にし、ペロリと紅い唇を舐めた女に、喰えないと思ったのは言うまでもなかった。

 だが、喰えない女ならアイツもタチが悪い。

 残念、俺らの勝ちだ。









 「────……潜入開始」


 狩りの時間のはじまりはじまり。


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