ヨルの探偵Ⅰ
夜白を潜入させるには、龍彦以外の協力者が必要だった。
潜入方法は幾つかあったけど、エリアが合わなくて逃げ出したという方法が一番確実で適策だった。だがその方法だと龍彦の名前は使えなかった。
それは単純に、些細な疑問が残るからだ。
どんな理由を見繕っても、少しの懸念も許さないボスなら不安材料になりかねない。
そこで元夕霧エリアの人が新エリアに逃げ出したというなら不可解ではないと考えた。しかし、それだと確実に朝霧の協力がいる。
どうコンタクトを取ろうと思っていた矢先に、依頼が舞い込んだ。
──「夕霧を、私の元に連れ戻して欲しい」
なんて美味な依頼。
二つ返事で了承した。律儀に電話BOXから掛けてきた朝霧は真面目な男だ。そして、その真面目さは夕霧に関することのみ発揮される。
夕霧も難儀なものに捕まったなと、龍彦と失笑したくらいだ。
「それにしても、朝霧は表情管理が上手いね。実際のところ腸煮えくり返る思いでしょ?」
「……ふふっ。まぁ、えぇ」
美しい朝霧が、こてんと頭を傾けた。
朝霧は常に、口角が上がっている。物腰が柔らかく、目元が穏やかで、何事にも動じない。深緋の髪は夕霧が染めた。そこに自分の主張は存在しない。
だからといって、感情がないわけではない。
「愛しの夕霧のエリアを何処ぞの女に持っていかれて、さぞお怒りでしょーにって龍彦も言ってたよ」
「夕霧の許可が降りれば、あの女の首、今すぐにでも絞め殺しますよ」
「あは、全然変わってないね。朝霧は」
この二面性。
落ち着いた雰囲気とは反対に、中身はどろどろと煮えたぎっている。