ヨルの探偵Ⅰ


 実際は、夕霧が消えてバラバラになったエリアから移動したい人が現れても仲介するくらい優しげに見えるが、そんなの嘘っぱちだ。

 今か今かと、好機を待っているのだ。

 新エリアの女ボス。────蘭という女の首を絞めるために。


「ところで、朝霧。夕霧が消えた日のこと詳しく教えて欲しい」

「はい。2ヶ月前から急に地上に出る日が多くなって、誰かと頻繁に会っていたようです。消えた日は、夕方に地上で約束があると、それから戻ってきませんでした」

「夕霧のGPSとかはどこでわかんなくなった?」

「地上に出て、ほんの数分後です」


 なるほど。やっぱり関係あるな。

 私の予想が正しければ、夕霧は嵌められたのだ。

 この件は、確実に合成ドラックが絡んでいる。それならやることは1つだ。


「朝霧、あの新エリアのボス。蘭とやらについて何か知ってることある?」

「数年前に、違う地区のエリアの住人だったらしいです。地上でも生活していたようですが、合わないと今回出戻ってきたという噂です」

「了解。それが本当なら彼女と面識のある人物がいるはず。探ってきてほしい」

「わかりました」


 ここは子供の時に来てないと入れない。大人が容易く入れる場所じゃない。つまり、本当に彼女は昔ここにいたことになる。
 
 それがいつか、そして数年地上で何をしていたか、繋がれば糸口が見える。


「……お、ベストショット」


 監視カメラに映ったまだ幼い顔立ちの男に、運び屋は君かと微笑んだ。

 でも彼は重要ではない。彼が蘭という女と面識があることが重要なのだ。ここからは夜白の力量だ。画面に映る仲間の姿に、小さくエールを送った。

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