ヨルの探偵Ⅰ
ここからはちゃっちゃと済ませようと、公開処刑の方を楽しみにしている住人のために早口で説明を再開した。
「貴女は焦った。後ろ盾がなかったから。夕霧に捕まるのも時間の問題だと画策していた時に、一通の連絡が来た。ふざけたクラッカーからだ」
「……な、なんで知ってるのよ」
「貴女は自ら夕霧に連絡を取って地上に誘き出した。そして、夕霧を襲って眠らせ、消えたかのように見せ掛けて何食わぬ顔でアンダーグラウンドの新エリアのボスになった。GPSや監視カメラは、クラッカーに任せてね」
「っ、証拠はあるの……? ないのよね」
「夕霧が見つかればそれが証拠。それに、バックもいないのに合成ドラックを地上に捌いてた。それはもうルール違反だよ。写真も音声も全てある」
女は踊らされていた。クラッカーの手のひらで遊ばれ、利用され、捨てられる。
長年ブローカーとして女が生計を立てていたのはこの世界では珍しい。頭もキレるし、危機感もあったはずなのに、アンダーグラウンドに来て鈍ったか。
ある意味、何してもお咎めはないからここは安全地帯ともいえる。でも忘れちゃいけない。
無法地帯でもあることを。
「まだよ。まだ、夕霧が見つかってない……。見つからなければ、言い掛かりよ」
「逃げられると思わないでね」
無駄だよ。ゲームオーバー。
この女、蘭はここで終わる。そして、私の手札にはまだクラッカーを捕まえられる余地も残ってる。