ヨルの探偵Ⅰ


 話し終えて、一息ついたところで朝霧が泣きそうな顔をして現われた。

 バタバタと走って、監視カメラが途切れた機能していない部屋から出てきた朝霧が「いない……」と呟く。それに、私の足元で呻く女が希望の笑みを灯した。

 ……馬鹿だね。


「ほら、いないじゃない。私の勝ちよ」

「……木を隠すなら森の中」

「ふふ、朝霧ぃ〜! 女の部屋に行ってみな。隠し部屋かなんかあるよ」

「……っ、は、なんで……」


 夜白の言葉に、見取り図のことを思い出した。大事なものを隠すなら、手元が一番ってね。夜白にお礼のウィンクをしながら、朝霧に「行きな」と促す。

 そして数分経ち、朝霧が傷を負って痩せてやつれた夕霧を抱えて登場したことでゲームセット。


「残念、貴女の人生はここで終わり。朝霧の依頼も終わった。でも、まだ私の件が終わってない」

「……」

「元凶は全部クラッカー。ソイツに罰を与えたい」


 基本、ハッカーやクラッカーは姿を現さない。

 今回のがいい例だ。情報を武器に、人を操ってる。情報を売って、改竄して、自分は安全地帯にいる。

 捨て駒だからこそ。この女は絶対に何かを知っている。

 そう思って、話を投げ掛けたのに、女は目を丸くして驚いたような顔をした後、狂ったようにケタケタと笑いだした。


「……アハハハッ! ばっかじゃないの!」

「なにがおかしいの?」

「ふふふふっ、もう手遅れよ! なぁんにも見えてないのね!」

「……どういうこ、と」



「 ────もう、いる(・・)わよ 」


 ゾクリ、背中が粟立った。

 もう、いる? いるって、どういうこと。女の狂った笑い声に余計に頭の中が混乱して、息が浅くなる気がした。

 ちょっと、まって。私、何時から。




 ────────カチッ。



 足元で、なにか音がした。

 女が奥歯を噛んで、愉しそうに笑ってる。

 ふと、思考が鮮明になった。








「────────伏せろっ!!!」


 ──……直後、衝撃音。

 嗚呼、ピエロの正体は、これか。



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