ヨルの探偵Ⅰ
部屋はもぬけの殻で、残ってるのは血なまぐさい匂いだけ。
龍彦の腕から降り辺りを見渡すも、おかしなことなどなにもない。この部屋は拘束椅子としかない。内側にドアノブもない。
拘束椅子からどうにか解放されても、ドアを開けることができない。
なのに、それができたってことは──
「おい、今すぐ探せ」
「いや、もう遅いよ。手遅れ」
「ア? どういうことだ」
ギロっ、と睨んできた龍彦に「もういない」と言って、壁の隅にあった小さな文字を指さした。
そこには簡単なアナグラムで、こう書かれていた。
〝刺激的なスリルをありがとう〟
ようやく全てが繋がった気がした。
「クラッカーが欲しかったのは、このアンダーグラウンドの独自のデータベース。朝霧が言ってた。アイツらはこの手の話になると厄介だって」
あのストーカー養護教諭はあの屋上を最後に死んでる。殺された。
そして、入れ替わった。
ここは血腥いから匂いを誤魔化せる。暗くて、顔も殴られ腫れていた。別人になっていても気づけない。それでも、ばれたら殺される。無傷は不可能。そんなリスクの中で、男はやってのけた。
つまり、最初から私は騙されていたわけだ。
全てブラフ。これまでのは布石。
クラッカーは、自分の目的と自分の命さえ賭けたゲームをしていた。