ヨルの探偵Ⅰ


 常々思う。無駄な知識なんてないのだ。脳内に記憶した知識をどう使うか、それが大事だ。

 ペンっ、ペンっ、と定規を持っていた手を、もう片方の手に音を立てて打ちつける。

 だから、なんで、どうして!


「こんなに馬鹿なのっ!?!?」

「落ち着いて! 冷静に! 月夜ちゃん!」

「はぁ、はぁぁぁ、馬鹿すぎる……」

「同感。僕、ここまで馬鹿な人見たことないね」


 テーブルに馬乗りになって、何回教えても首を傾げる恭とヘラヘラ笑って一向に進まない蒼依くんの胸ぐらを掴んだ。

 もちろんその奇行は優介くんに止められたのだけど、この数時間の恨みが収まらない。

 あれだけ教えたのにっっ! 教えたのに!!

 留年する理由がわかってしまった……! と10日ぶりに帰ってきた我が家のソファーで私は疲労感に襲われてぐったりと項垂れる。


「姉ちゃん。ミルクティーあげるからここ教えて」

「いいよぉ。朝陽は可愛いし、この目の前のおバカさんたちと違って理解力も記憶力もあるし、可愛いし」

「あ〜、月夜ちゃんそれ差別って言うのよ〜?」

「蒼依くんの脳みそは猿人類に近いと思うよ。ジャングルに行けばうまく生活できると思うな」

「ハハッ! 蒼兄サルだって!!」


 ナイスだ、虎珀くん。

 悪気ない一言が蒼依くんの心を抉ったよ。よしよししてあげよう。

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